データに基づいて対象を絞り込む施設選定戦略によって細胞・遺伝子治療の治験を加速

By Angela Hirst, Director, Site Alliance, Therapeutic Networks, Oncology

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データに基づいて対象を絞り込む施設選定戦略によって細胞・遺伝子治療の治験を加速

これまで最も重要な細胞・遺伝子治療 (CAGT) 治験は、米国を中心とする主要な学術研究機関が実施してきました。しかし、第2世代のCAGTパイプラインが拡大し、新たな治験が次々と始まる中、現場は深刻な行き詰まりに直面しています。パンデミック後の医療スタッフの流出を含む主要なCAGT機関におけるリソースの減少は、患者さんの治験へのアクセスを制限し、臨床開発の進行にも支障をきたし始めています。

根治が期待される治療薬を十分に検証し、必要とする患者さんに届けるためには、CAGTの研究をより多くの治験実施施設に拡大することが不可欠です。地域密着型の非学術系病院や診療所でもCAGTの治験は実施されていますが、そのうち完了したものは1、2件しかありません。これらの治験は複雑で時間と労力がかかることで知られているため、参加に消極的な施設もあります。

それでも複数のCAGT治験を実施し、さらに拡大する意欲を持つ地域施設も増えつつあります。熟練したスタッフやリソース、組織体制を備え、この高度な研究を遂行可能な信頼できるパートナーとしての地位を確立した施設もあります。この分野が持続的に発展し、さらなる勢いを得るためには、治験依頼者や医薬品開発業務受託機関 (CRO) が、そうした施設を支援・育成する必要があります。

意欲のある施設を特定し、成功への段階的な道筋を提供

施設のCAGT研究への関心は、多くの場合、意欲ある治験責任医師やキーオピニオンリーダーにより大きく左右されます。キメラ抗原受容体T細胞 (CAR T) 療法や遺伝子治療の治験に関心のある治験責任医師がいれば、施設も関心を示します。したがって、CAGT研究の実施に意欲のある治験責任医師が常駐する地域施設を特定することは、潜在的な治験実施施設を増やし、医療サービスが十分に行き届いていない地域や多様な患者さんへのアクセスを広げることにつながります。

動機は一様ではありません。多くの治験責任医師は、難治性疾患に苦しむ患者さんに効果的な治療を受ける機会を提供したいと考えています。革新的な薬の治験を成功させ、評価や査読付き論文の発表を目指す治験責任医師もいます。しかし、おそらく最も重要なのは、CAGT研究が施設の認知度を高め、より多くの患者さんや治験、投資を呼び込むことでインフラの整備にも役立つということです。

パレクセルでは関心のある施設を特定して詳細にプロファイリングを行うことで、適応症、治験責任医師、患者集団などの要因を調査し、プロトコルに最適な施設をそれぞれ選定しています。これは弊社の経験と、施設の関心、地域、能力を反映した豊富なデータベースに基づいて行われ、施設が成功裏に遂行できる治験を提供します。手順や評価は施設の能力によって対応する必要がありますが、知識や経験の不足分についてはトレーニングやサポートを実施します。

たとえば、放射線療法を伴う多形性神経膠芽細胞腫 (GBM) の経口治療薬の治験実施施設を選定する場合、放射線療法の設備がない地域施設には依頼しません。同様に未経験の施設は、塩基編集や自己増幅型mRNA療法の試験を請け負うべきではありません。しかし、多様な患者集団が必要とされる治験や適応症の場合は、広範な地理的範囲に対応する地域施設を探します。地域施設がすでにモノクローナル抗体 (mAb) 療法を実施し、免疫原性の有害事象を監視・治療できる医療サービスを提供している場合は、良い候補となります。このような施設であれば、T細胞療法を適切かつ慎重に実施できる可能性があります。治験の成功を1つずつ積み重ねることで、自信と能力を備えたCAGTに対応機関のネットワークを広げていくことができます。

的確な施設選定は時間とコストの削減につながる

実現可能性評価や施設選定は、CROの標準手順です。CROは通常、社内外のデータベースサービスを使用して (たとえばCAR-T細胞療法を用いた第II相のがんの治験を) 過去に実施経験があるすべての施設と治験責任医師のリストを作成します。この作業では約300の施設がリストアップされる可能性があります。その後、リストの施設候補を1件ずつ精査し、既存の作業負担やその他の詳細に基づいて優先順位を付けていきます。

このようなトップダウン方式のアプローチは効率的ではありません。さらにこの方法では、同じ学術研究機関がリストの大半を占めてしまう傾向があります。代わりにパレクセルでは、プロトコルと特定施設に関する弊社の経験に基づいて候補を絞り込み、ボトムアップ方式でリストを作成します。

たとえば弊社は最近、新興バイオテクノロジー企業のために、がんに対する「既製」の同種T細胞療法を試験する施設のリストを作成しました。同種由来製品は健康なドナーのT細胞から作られ、自家細胞療法 (患者さんの血液からT細胞を取り出し、遺伝子操作と増幅を施設外で行い、数日以内にその細胞を治療施設に送り返し、同じ患者さんに再び投与する) のような追跡や取り扱い手順を必要としません。この第I相多コホートバスケット試験では、さまざまなタイプの固形腫瘍再発患者を対象とし、併用療法群も含まれていました。弊社はこの治験実施計画を実行できる施設を特定するため、治験の実施と参加者募集に影響を与える可能性がある以下のような要因を考慮しました。

  • 遺伝学的検査のリソース:治験参加者が該当する遺伝子変異を有することを確認するために、施設内で遺伝子検査を実施できるか、または検査を実施し結果を提供できる紹介施設に迅速にアクセスできるか。併用療法群では、さらなる遺伝学的検査が必要となりました。
  • 実施されてきた治験フェーズの傾向:治験は用量漸増フェーズの後に用量拡大フェーズが続くデザインであるため、その両方への参加が可能であるか。用量漸増試験のみに慣れている施設もありますが、そうした施設を含めることで治験前半の進行が早まる可能性があります。
  • 幅広い固形腫瘍の治療経験:乳がん、胃がん、大腸がん、肺がん、頭頸部がんなど、幅広い固形腫瘍を診断・治療しているか。複数の標的療法で効果を得られなかった患者さんのみが適格となるため、そうした患者さんの診断や治療をほとんど行っていない施設では、登録に時間がかかる可能性があります。
  • CAGT治験の実績:これまでにCAGTに関する治験の経験があるか。比較的扱いやすい第2世代の同種由来製品ではあるものの、過去に実際の経験がある施設の方が、治験を実施するための準備や設備が整っている可能性があります。
  • FACT認定の有無:細胞治療認定財団 (Foundation for the Accreditation of Cell Therapy / FACT) やその他の国際認証機関による認定を受けているか。(プロトコルによって必須ではない場合もありますが、取得している方が望ましいです。)
  • 生検の実施能力:新鮮組織の生検を実施できる能力があり、実施を希望するか。弊社の経験上、組織生検要件は治験責任医師の関心が低下し、治験参加者募集が遅れることがあります。 

この特定のプロトコルに関連する要因を精査した結果、条件に合致する31の施設が特定されました。弊社はさらにいくつかの追加フィルターを適用し、事前選定された15の有力施設リストを作成しました。このリストには主要な学術研究機関と、非学術系地域施設の両方が含まれています。ただし、治験の要件上、リストは学術機関に偏る形となりました。弊社の施設プロファイリングと的確なアプローチにより、追加でリストを精査したり、時間をかけて見直す必要はありませんでした。

治験依頼者はCAGT試験の実施において、特定の施設を優先的に選択する傾向にあります。多くの治験依頼者は18ヵ月以上の待機期間を要することになっても、主要な学術研究機関で治験を行う傾向があります。これは主要なCAGT施設に企業主導の治験が集中し、停滞している現状から生じる避けられないトレードオフと言えます。弊社は一部の地域施設では、治験開始までにわずか3ヵ月で到達できるという事実を踏まえ、治験依頼者がこれらの施設を活用することで、治験の開始 (および終了) 時期をどれほど前倒しできるかを見積もることが可能です。

的確かつ効率的な施設選定は患者さんへの支援につながる

パレクセルはCAGT研究において、患者さんが今後も治療や治験に安定して広くアクセスできるように施設のプロファイリングと事前選定に取り組んでいます。私たちは施設選定の手法をさらに効率的かつ効果的に進化させることで、これらの治療をより多くの多様な患者さんのもとへ、より早く届けられると確信しています。

Contributing Expert