バイオマーカーと認知機能検査を含む第I相アルツハイマー病治験の参加者の募集

By Anita Mardian, Vice President and Unit Head, Los Angeles Early Phase Clinical Unit
Lev Gertsik, Medical Director, Clinical Trials Medical Group, Los Angeles Early Phase Clinical Unit
Lydia Morris, Clinical Research Psychologist

4 min

バイオマーカーと認知機能検査を含む第I相アルツハイマー病治験の参加者の募集

Lev GertsikとLydia Morrisは、パレクセルの第I相試験向けに患者さんの募集活動を行っている4つの施設の一つであるロサンゼルス初期段階ユニット (EPCU) の治験責任医師です。Anita Mardianのリーダーシップの下、2人は科学的探究への熱意、問題解決能力、そして日々共に働くボランティアや患者さんの価値と尊厳に対する強い信念を共有しています。

2023年初頭、彼らはパレクセルの資金援助を受け、第I相試験に参加したことがある健康な高齢者を対象に、血液検査でベータアミロイド (Aβ) とタウタンパク質の初期蓄積を示した人を特定する医師主導治験を行いました。Aβとタウはアルツハイマー病 (AD) のバイオマーカーで、アルツハイマー病とそれに伴う認知機能低下が診断されるずっと前から脳内に蓄積し始めます。パレクセルの治験では最近アルツハイマー病の病態の検出において91%の精度を達成したと報告された血液検査と同様のものを使用しています。1

ここではLevとLydiaに新たな治験を計画した動機と、このアプローチが切実に望まれる新規療法に必要な患者数の募集に苦労しているアルツハイマー病の治験インフラの再活性化につながると信じる理由について話を聞きました。

早期スクリーニングのアンメットニーズに対応

アルツハイマー病 (AD) は、2021年の時点で米国の65歳以上の高齢者の死因の第5位にランクインしています。2 これは直接的ではないにせよ、介護者や社会の一員として、私たち全員に間接的に影響を与える深刻な社会問題です。研究者として、そして一人の人間として、私たちはアルツハイマー病の疾患修飾療法の開発に全身全霊を傾けています。何百もの有望な薬剤が開発パイプラインに存在しますが、第I相試験で小規模な患者コホートを募集する時点で、すでにボトルネックが生じており、治験依頼者への重要なデータの流れを妨げています。

これには多くの理由があります。アルツハイマー病の初期段階の治験には、長期間の入院や腰椎穿刺のような侵襲性手技が含まれ、患者さんとそのご家族にとって大きな負担になることが多くあります。後期段階の治験とは異なり、第I相の安全性・忍容性試験では治療効果は期待できません。初期段階の治験に参加する場合、利用可能な治療を断ったり、延期したりしなければならないこともあります。また進行が進んでからアルツハイマー病と診断された場合には、医学的または体力的な理由で参加が難しくなります。

パレクセルの心理学・精神医学チームは、約10年前にロサンゼルスの初期段階臨床ユニット (EPCU) にメモリークリニックを設立し、患者募集チームの協力を得て、こうした課題の解決に乗り出しました。まず精神機能の低下に不安のある人々に包括的な認知機能評価を無料で提供することで、コミュニティのアンメットニーズである軽度認知障害 (MCI) やアルツハイマー病の早期スクリーニングと、そのアクセスの必要性に対応しました。神経科学コミュニティでは、アルツハイマー病の過小診断と診断の遅れが、治験の募集活動の大幅な遅れを引き起こしていました。

私たちはアルツハイマー病の早期発見の促進を目標に、地域の医師や患者さん、そのご家族と確かな信頼関係を築き、治験参加に興味がある人たちに情報を無償で提供するためにメモリークリニックを設立しました。これらの目標は達成され、軽度認知障害とアルツハイマー病の第I相試験の募集状況は改善されましたが、3 最も負担の大きい軽度認知障害とアルツハイマー病のプロトコルでは、患者さんの確保が依然課題として残っていました。

学術的進歩と患者ケアのギャップを埋める

メモリークリニックの設立は重要な第一歩でしたが、アルツハイマー病患者とそのご家族にとって、第I相試験に参加することの負担の大きさと有益性の低さに変わりはありません。そこで解決策を探し続けた結果、新しい技術とアプローチを導入する必要があるという結論に至りました。アルツハイマー病の研究の学術的進歩を目の当たりにするなかで、私たちなら最先端の研究と患者ケアの橋渡しができるということに気づいたのです。メモリークリニックでは、認知機能の低下を検出することができます。しかし、認知機能の変化に先行する血液バイオマーカーを使用すれば、アルツハイマー病の予兆を捉えることが可能になります。

私たちはFDAが承認した新しいバイオマーカー検査を活用すれば、アルツハイマー病を早期に発見できることに着目し、治験への参加によって患者さんの予後を改善できる可能性があると考えました。そこでAβとタウの血液バイオマーカーデータまたは認知機能検査の結果に基づき、アルツハイマー病を発症するリスクがある健康な治験参加者を特定して追跡するプロトコルを作成しました。これらの参加者にとっての負担は、採血と訓練された評価者による認知機能検査のみです。

アルツハイマー病では、神経細胞内のAβプラークとタウタンパク質がもつれた塊となり、脳の情報伝達経路を遮断します。私たちの目標は、このような毒性タンパク質の凝集の防止、または脳内から除去する治療法を見つけることです。

パレクセルは、ベータアミロイド (Aβ) とタウの血液バイオマーカーデータまたは認知機能検査の結果に基づき、アルツハイマー病を発症するリスクがある健康な治験参加者を特定して追跡するプロトコルを作成しました。

治験を開始するにあたり、数百名の健康なEPCUのボランティアたちと長年にわたって築いてきた関係を基に、過去5年以内に治験に参加した60歳以上の方々に連絡を取りました。アルツハイマー病患者とそのご家族は、一般に治験の経験が少なく、参加に躊躇しがちですが、パレクセルのボランティアたちは経験豊富で、負担の大きい初期段階の治験にも慣れています。参加者の方々はパレクセルの治験チームに信頼を寄せており、治験が安全であること、そして第I相試験の科学的価値と目的を理解しています。パレクセルの調査では、認知機能が高い健康な高齢者は治験への参加に前向きであることが判明しています。4 

パレクセルが招待した人たちは参加率が高く、データベースは拡大し続けています。現在までに治験に登録した参加者の約20%が、アルツハイマー病に伴う軽度認知障害と一致するバイオマーカーと認知機能を有しており、50%近くが亜臨床的または臨床的アルツハイマー病を示唆するpTau181値を有しています。5 これらのデータは、治験の完了時に公表する予定です。血中のAβ濃度とタウ濃度の上昇や、認知機能検査の不良な結果は、必ずしもアルツハイマー病の発症を保証するものではありませんが、アルツハイマー病に進行するリスク因子であると考えられています。6

初期段階の治験ではアルツハイマー病患者の代わりに、パレクセルの「バイオマーカー陽性」データベースから参加者を募集することができます。そしてこれらの参加者は、条件を満たせば、将来 後期有効性試験に登録できる可能性があります。アルツハイマー病の第I相試験を実施する治験依頼者にとっては、この参加者データベースは、第I相試験のスケジュールを劇的に早める有効な手段となり得ます。軽度認知障がいやアルツハイマー病患者さんの同じコホートの募集にかかる時間よりもはるかに短い時間で、治験の後期段階に進むために不可欠なデータを収集できます。

個人的な関係を通じて科学的・臨床的知識を提供

アルツハイマー病患者の募集活動は、多くの場合、悲痛な作業になりがちです。多くの患者さんは厳格な適格基準または除外基準を満たしていないか、診断時に病気が進行しすぎていて治療の恩恵を受けることができません。メモリークリニックでは、これまでたくさんの素晴らしい勇気ある患者さんたちと出会ってきました。中にはアルツハイマー病が進行し、つらい病状に苦しんでいる方もいました。しかし多くの人が、自分が恩恵を受ける可能性はほとんどないとわかっていても、将来誰かのために役立ちたいという思いで、初期段階の治験への参加に同意してくださいました。

1人の年配の女性、ここではEvelynとしますが、彼女のことは特に記憶に残っています。彼女は自分の思考や行動の変化に気づき、主治医に相談したところ、私たちのクリニックを紹介されたということでした。評価の結果、認知機能と脳脊髄液に早期アルツハイマー病の特徴があることが判明しました。彼女は第I相試験への参加を強く希望し、世の中のためになるならと、ご自身の時間と生体サンプルを快く提供してくれました。しかし残念なことに、彼女の血管は治療薬の点滴に耐えられず、治験を続けることは叶いませんでした。彼女の落胆は相当なものでした。それは私たちも同様です。Evelynとは治験を通じて親しくなり、治療を中止した後も定期的に電話で連絡を取り合う間柄になりました。そんな彼女の熱意に力づけられ、アルツハイマー病研究の進展により一層努力しようと改めて誓いました。

健常ボランティアの中には、謝礼金を目当てに第I相試験に参加している人も多くいます。しかし、患者ボランティア、特に高齢者の方はそうではありません。自分のため、そして子供や孫の世代のために、アルツハイマー病の治療を前進させたいという方たちがほとんどです。

私たちはパレクセルの治験に参加されるかどうかに関係なく、患者さんとそのご家族のウェルビーイングに対する献身を示すことで、信頼関係を築いています。診断が下された時点で、ご家族の話し合いの場を設け、地域の支援グループを紹介するなど支援を行います。またその後もフォローアップ評価をご案内したり、継続的なアドバイスや推奨事項をお伝えするなどして、患者さんとご家族に寄り添うことを心がけています。このようなご家族の多くは適切な治験を待ち望んでおり、患者さんの近況確認や、参加できる可能性のある新しい治験についてお知らせする電話にも快く応じてくださいます。私たちがご家族と温かい信頼関係を築けているのは、私たちが患者さんとご家族の健康を真剣に考え、新しいアルツハイマー病の治療法の開発に尽力していることをご理解いただいているからです。

治験の成功は、最先端の血液バイオマーカー検査や臨床の専門知識だけでは実現できません。科学的な進歩や技術的な専門知識を必要としている患者さんに届けるためには、コミュニティの人々と関係を築き、一人ひとりの背景や事情を理解することが必要です。

謝辞:科学的にご指導ご鞭撻を賜りましたSvetlana Semanova、「Evelyn」をはじめとする患者さんに寄り添い、関係を築いてくださったStephanie Law、募集活動にご尽力いただいたClaudia AguilarとWarren Youssefian、そしてこれらのプロジェクトを編成し、支えてくださったロサンゼルスEPCUの過去と現在のスタッフの皆様に心より感謝申し上げます。

治験の成功は、最先端の血液バイオマーカー検査や臨床の専門知識だけでは実現できません。科学的な進歩や技術的な専門知識を必要としている患者さんに届けるためには、コミュニティの人々と関係を築き、一人ひとりの背景や事情を理解することが必要です。

Contributing Experts